07.11.2010 (Sun)
先週末に引き続いて今週もユトレヒトに出かけた。今日はユトレヒト大学のキャンパスへ建築見学。 ベルラーヘにいた際、経済的、社会的、政治的な状況下を解釈した上で建築を考えるという趣旨の話を何度も何度も聞かされた。リアルな社会状況が建築や都市にどう影響を及ぼすのか?それを考えるのがベルラーヘでの考え続けてきたことといってもいい。 在学当時はそういったことが議論の的になっていることは理解できたが、それを身に染みて実感できる機会はなかなか訪れなかった。 今日ユトレヒト大学の二つの建物を訪れてなんとなくだが、経済的、社会的、政治的な状況と建築デザインという二つの側面がつながって見えた。 * * * University Library Utrecht ヴィール・アレッツによる大学の図書館。彼の建物に入るのはこれが始めてだ。写真で何度か見たことがあり、とても繊細にデザインしつくした巨大な工芸品のような建物という印象を持っていた。しかし、実際建物の中に入りその姿を目の当たりにすると全く異なる印象を受ける。荒っぽい。 デザインをいたるところまでし尽くしているが、それが一人歩きしてしまっているような印象を受ける。建築家はとても丁寧にあらゆるポイントをデザインしきっている。そのこと自体は何も間違っていない。ただ施工精度がそれに追いついていないだけなのだ。 しかし、建築家はそれをただ施工精度のせいだと言い訳することはできないと思う。そのオランダの施工精度という社会的状況をどう建築家が捕らえて、どうそれを扱うのか?その判断が建築家に欠かせない最も重要な決断の一つであったと思う。 ヴィール・アレッツはあくまでもデザインをし尽くすという判断により施工精度を凌駕しようとした。しかし、結果、少なくとも僕には、頑張れば頑張るほど、その悔しい思いみたいなものが滲みでてしまっているように感じられてしまった。 ちなみにこの建物ので一番心が暖かくなったのは消火栓だった。建物内すべてが、黒、赤、そしてシルバーの三色で統一されている。消火栓もその三色のみが使われているものが選ばれきれいに納まっている。でも、それは本当の建築の強度とは違う、おまけのような強度である。 Educatorium およそ10年前に一人でヨーロッパ旅行をした際にここを訪れた。当時とても納得いかず違和感たっぷりだったのが、カーブしたコンクリートスラブ下のガラス面だった。ガラスフィンのジョイント部が金属プレートに挟まれてボルト剥き出しで固定されている。その無骨さがものすごく心地悪く、好きになれない建物であった。 でも今になって考えるとこれは限られた予算配分の割り切りによるものだと解る。クリアなガラスの大開口を実現するため、大きなマリオンを避けガラスのフィンを用いた。フィンのジョイント方法を様々な工法が検討されていたが、そこは限られた予算をつぎ込むポイントでは無いと完全に割り切った。一度割り切った場合、中途半端な態度は一切とらない。割り切ったジョイントに最もふさわしい工法が採用される。それが金属プレートと剥き出しのボルトであった。その割り切りが美学となる。状況判断がデザインとなる。 これは経済的、社会的状況とこの建物のデザインの関係を示すごく一部に過ぎないと思う。でも一部でも十分意図は伝わる。1990年代当時のOMAとレム・コールハースによって下された数々の決断によって、経済的、社会的、政治的な状況と建築デザインをつなぐプロジェクトが生まれたのだ。 * * * 例えば今の日本においてOMAが1990年代のオランダで手掛けた建築と同じようなデザインが用いられるということが起きたとしたら、それは、経済的、社会的、政治的な状況と建築デザインとの関係を無視したとてもおかしなものとなる。おそらく単純にデザインの表面をコピーしたに過ぎないことになるだろう。 建築はもちろんかたちをデザインする行為である。しかしそれは建築家の決断の一面であり、その前提としてくだされる経済的、社会的、政治的な状況への判断力がもう一つの大切な側面である。ベルラーヘで僕が学び続けてきたことはそのようなことなのかもしれない。 Top▲ |
by murakuni1975
| 2010-11-10 11:04
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ロッテルダムの設計事務所OMAで建築・都市について考える。「人生の夏休み」http://murakuni75.exblog.jpの続編です。
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